上映会:下園の十五夜

旧暦の八月十五夜は、いわゆる中秋の名月である。十五夜行事は収穫の感謝祭である。鹿児島県を含む南九州は、特に十五夜の綱引や相撲が盛んなところである。そしてそれはただ単に月見の余興ではなく、十五夜行事というものの本来の意味を考えさせる重要な手がかりになる行事である。このフィルムは、十五夜の綱引などの古い習俗を伝えていると考えられる枕崎市下園(しもぞん)における十五夜行事を記録したものである。

枕崎の海岸から約4キロメートル内陸に入った下園地区は、川ぞいの平坦地を三方から山がかこみ、小さな盆地となっている。川ぞいに水田、山すそから山腹にかけて畑がひらかれている。
旧暦8月1日(八朔)を過ぎると、人々は山に通い、大量のカヤを刈り集める。十五夜綱引の綱をつくるためである。
七才から十四才ぐらいまでの子どもたちも山に行き、カヤをひく。子どもたちは大人と違ってカマを使わず手で引き抜く。

カヤを束にして頭からすっぽりとかぶって山を降りる。カヤ束のてっぺんにヘゴ(ウラジロ)やアケビの実で飾ったヘゴガサをゆさゆさと揺らしながら狭い山道を降りてくる。大声で歌をうたいながら下りるのだ。村の入り口では人々がヘゴガサの一群を出迎える。すっぽりとカヤ束をかぶった子どもたちの姿は異様である。下園の人々はそれを神さまだと思い描いている。下園の十五夜行事のなかで、最初のそして大事な行事である。実は山から神が下ってくることをこれほど具象的に残されている例を他に知らない。

家々では月へ供える御馳走をつくる。サトイモ、大根、筍など、すべて畑作物であり、それを煮付にする。月が出ると人々は収穫感謝のおもいをこめて捧げる。御馳走は臼の上に箕をおき、その上に並べ、花瓶にススキを飾っておく。

十五夜の日になる。カヤの大綱がつくられる。 月が上がる。素裸の子どもたち(山からカヤをかぶって下がってきた子どもたち)が大綱に腰かけ、歌をうたいながら大綱を守っている。キンメイチクでつくった火縄の火をふりながら二才衆(青年たち)が闇のなかからあらわれ、突然子どもたちに襲いかかる。逃げる子どもたち。二才衆が去るとまた歌で勇気をつけながら綱をまもる。

ユーモラスなツナミ(綱見)の後、子どもたちと二才衆の綱引。そしてハラベッサイ。二才衆が子どもたちに襲いかかり、子どもたちもけんめいに二才衆とたたかう。なぜ二才衆が子どもたちをおそうのか。なぜ子どもたちはたたかうのか。綱引きという行為そのものをふくめて深い暗示に富んだ行事である。

十五夜綱引きと相撲が終わると子どもたちは家に帰り、2才やサンゼ(三才・壮年層の人びと)だけが残る車座になり、十五夜綱引きの綱のセリをする。取り仕切るのは二才衆である。そして翌朝、二才衆たちは綱をほぐし、落札した人の畑にそれを運んで敷きつめる。

山から運ばれたカヤは、綱になり、そして再び土になり、畑の作物の肥料になるのである。
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